「虫歯じゃないのに歯がズキズキ痛む」「ストレスがたまると歯まで痛くなる気がする」そんな症状に悩む方は少なくありません。
実は、ストレスによる歯の痛みは、歯ぎしりや食いしばり、免疫力の低下、神経の過敏や炎症といった要因が重なって起こることがあります。正しい知識とセルフケアを取り入れれば、痛みをやわらげられるでしょう。
この記事では、ストレスで歯が痛くなる主な原因から、自宅でできる応急処置、歯科医院での治療や予防法までを解説します。症状への不安を減らし、安心して過ごせる毎日を取り戻すヒントにしてください。
目次
ストレスで歯が痛くなる3つの原因

ストレスが続くと、身体はさまざまな反応を起こします。その影響は口の中にも及び、虫歯がなくても歯痛の症状として感じられることがあります。とくに関係が深いのが次の3つの要因です。
- 歯ぎしり・食いしばりによる負担
- 免疫力の低下で炎症が起こりやすくなる
- 唾液の減少で口内環境が悪化する
歯ぎしり・食いしばりによる負担
ストレスを感じると、人は無意識に歯を強くかみしめることや、就寝中に歯ぎしりをすることがあります。こうした習慣は本来よりも強い力を歯や顎に加えるため、歯の表面に細かなひびが入ったり、歯茎に炎症を引き起こしたりする原因になります。
日本歯科医師会の調査では、成人の多くが歯ぎしりを経験しているとされ、特に強いストレスを抱える人ほど頻度が高いと報告されています。
その結果、虫歯がなくても歯や顎関節に過剰な負担が加わり、痛みとして現れることがあるのです。
>>参照:「歯ぎしり」歯とお口のことなら何でもわかるテーマパーク8020|日本歯科医師会
免疫力の低下で炎症が起こりやすくなる
強いストレスは自律神経の働きを乱し、体の防御機能を弱め、普段は抑えられている口内の細菌を活発にさせてしまいます。そのため、歯茎の腫れや炎症が起こりやすくなります。
歯周病や口内炎が悪化しやすいのも、免疫力が低下した状態の典型例です。研究報告でも、免疫機能の低下と口内疾患リスクの増加との関連が指摘されています。歯や神経に大きな異常がなくても、ストレスをきっかけに炎症が広がり、歯痛として感じられることがあるのです。
唾液の減少で口内環境が悪化する
唾液は口内を清潔に保ち、細菌の増殖を抑える大切な役割を持っています。しかし、その量が減ると歯や歯茎が刺激に弱くなり、しみるような症状が出やすくなるでしょう。
また、口の中が乾いた状態は細菌の繁殖を招きやすく、結果的に虫歯や歯周病のリスクも高くなりかねません。
ある研究では、強いストレスを受けた人の唾液量が通常より大きく減少することが確認されており、この変化が神経の過敏やストレス性歯痛の一因になると考えられています。
>>参考文献:中川洋一.「ストレスによる唾液分泌抑制のメカニズム」. 歯薬療法, 38(1), pp.19-27, 2019.
ストレス性歯痛と虫歯の違いを知ろう

虫歯ではないのに歯がズキズキ痛むと「どこか悪いのでは?」と不安になるかもしれません。ストレスによる歯痛には、虫歯とは異なる特徴があり、症状の現れ方にも違いがあります。ここでは代表的な3つを解説します。
- 夜や夕方に痛みが強まりやすい
- レントゲン検査で異常が見つからないことがある
- 痛み止めが効きにくい場合がある
夜や夕方に痛みが強まりやすい
ストレスによる歯の痛みは、夜や夕方に強まることが多いとされています。仕事や勉強で心身が疲れ、ストレスが積み重なる時間帯に出やすいためです。
虫歯は痛みが一日中続くことが多いのに対し、ストレス性の痛みは時間帯によって強弱があるのが特徴です。この違いを知っておけば、自分の症状がどちらに近いのか判断しやすくなるでしょう。
レントゲン検査で異常が見つからないことがある
虫歯や歯周病が原因の痛みは、ほとんどの場合、レントゲンや視診で異常が確認できます。しかし、ストレス性歯痛では歯に大きな損傷がないため、検査をしても異常が見つからないケースがよくあります。
特に「非定型歯痛」と呼ばれる状態では、歯や神経に問題がないのに痛みだけが続くことがあり、背景にはストレスや自律神経の乱れが関与していると考えられています。
痛み止めが効きにくい場合がある
ストレスが関与する歯の痛みは、炎症や虫歯のような明確な原因がなく、神経の過敏や筋肉の緊張から起きる場合があります。そのため、一般的な鎮痛薬を飲んでも思ったほど効果が出ないことも少なくありません。
薬で一時的に楽になっても、ストレスや生活習慣を改善しなければ症状は繰り返し現れるでしょう。長引く場合は歯科医院で相談し、適切な治療を受けることが大切です。
自宅でできるストレス性歯痛の4つの対処法

歯の痛みが気になるときは、まず自宅でできる応急処置を試してみましょう。ここで紹介する方法は一時的に症状をやわらげるためのもので、原因の特定や根本的な治療にはなりません。歯科医院での診察が必要です。
- 患部を冷やして炎症をやわらげる
- 市販の鎮痛薬を正しく活用する
- うがいや歯みがきで口内を清潔に保つ
- 顎や顔まわりをマッサージして緊張をほぐす
患部を冷やして痛みをやわらげる
歯の痛みが強いときは、まず患部を冷やすことが有効です。冷たいタオルや保冷剤を頬の外側から当てることで、血流を一時的に抑えて炎症をやわらげ、痛みを軽減できます。ただし、氷を直接歯に当てるのは刺激が強すぎるため避けましょう。
市販の鎮痛薬を正しく活用する
痛みが我慢できないときは、市販の鎮痛薬を活用するのも方法のひとつです。用法用量を守れば一時的に症状を抑えられますが、薬に頼りすぎると根本原因の治療が遅れることもあります。数日経っても痛みが続く場合は、必ず歯科医院に相談しましょう。
うがいや歯みがきで口内を清潔に保つ
口内が不衛生になると炎症が悪化しやすいため、清潔を保つことが大切です。食後のうがいは、ぬるま湯や薄めた食塩水を使うと殺菌効果が期待できます。歯みがきは柔らかいブラシを選び、痛みのある部分は優しく磨きましょう。
顎や顔まわりをマッサージして緊張をほぐす
ストレスによる歯痛では、顎や顔の筋肉がこわばっていることがあります。こめかみや耳の前、顎関節の周囲を指の腹でゆっくり押すと筋肉がほぐれ、痛みがやわらぐことがあります。就寝前に行えば、歯ぎしりの予防にもつながります。
関連記事:歯が痛いのに寝れない人へ|まず押すべきツボと注意点
やってはいけない歯痛対処の3つの行動

間違った対処をすると、痛みが強まったり症状が長引いてしまいます。特に次の3つの行動は避けるようにしましょう。
- 患部を触ったり刺激したりしない
- 入浴や飲酒、運動で血行を良くしすぎない
- 喫煙は控えて回復を早める
患部を触ったり刺激したりしない
歯が痛むとつい舌や指で触ってしまう人は少なくありませんが、これは逆効果です。触れることで細菌が入り込み、炎症が悪化して症状が強まります。
特に爪や舌で強く押すと患部がさらに刺激され、神経が敏感になって痛みが増す恐れがあります。さらに、自己判断で削ったり尖ったもので触ったりするのは非常に危険です。痛みのある部分はできるだけ刺激を避け、清潔に保つことを心がけましょう。
入浴や飲酒、運動で血行を良くしすぎない
血行が良くなること自体は健康に役立ちますが、炎症を抱えているときは逆効果です。
熱いお風呂に長時間浸かる、飲酒をする、激しい運動を行うと血流が過剰に促進され、痛みが強まる恐れがあります。
どうしても入浴したい場合は、ぬるめのお湯に短時間だけ浸かる程度にとどめ、炎症が落ち着くまでは血流を急激に上げないよう注意することが大切です。
喫煙は控えて回復を早める
喫煙は歯や歯茎の血流を悪化させ、治りを遅らせる大きな原因のひとつです。タバコに含まれるニコチンには血管を収縮させる作用があり、炎症が長引きやすくなることで歯痛が改善しにくくなります。
さらに口内環境が悪化して細菌が繁殖しやすくなり、虫歯や歯周病のリスクを高める恐れもあります。痛みが強いときは特に禁煙を意識し、回復を優先できる生活を心がけましょう。
関連記事:歯茎が腫れて押すと痛いのは危険?放置NGサインと正しい対処法
歯科医院で受けられる3つの治療法

歯の痛みが長引くときは歯科医院で原因を特定し、専門的な治療や予防を受けることが大切です。代表的な対応は次の3つです。
- 定期的なクリーニングで悪化を防ぐ
- マウスピースで歯ぎしりを防止する
- 非定型歯痛には薬による治療もある
定期的なクリーニングで悪化を防ぐ
歯科医院で行うクリーニングは、歯の表面にたまった歯垢や歯石を専用の器具で取り除く処置で、自宅の歯みがきでは落としきれない汚れを効果的に除去できます。その結果、虫歯や歯周病のリスクを減らし、ストレスによる炎症の悪化も防ぐことができるでしょう。
日本歯科医師会の資料でも「定期的なクリーニングは歯を守る最も有効な方法のひとつ」と示されており、免疫が下がっているときほど清潔な口内環境を維持することが欠かせません。
マウスピースで歯ぎしりを防止する
歯ぎしりや食いしばりが強い人には、マウスピース(スプリント)を使った治療が有効とされています。就寝中に装着することで歯と歯が直接ぶつかるのを防ぎ、過度な力がかかるのを抑えることができます。
これにより歯のひび割れや顎関節への負担が減少し、痛みの改善や再発防止も期待できるでしょう。さらに、歯科医院で自分に合ったマウスピースを作成してもらえば、安心して継続的に使用できます。
非定型歯痛には薬による治療もある
検査をしても虫歯や歯周病が見つからないのに痛みが続く場合は「非定型歯痛」と診断されることがあります。この場合は、鎮痛薬や神経の過敏を抑える薬が処方されます。
効果がすぐに現れるとは限りませんが、医師と相談しながら治療を継続することで徐々に症状が軽減するでしょう。
ストレス性歯痛を防ぐ3つの生活習慣

歯の痛みを繰り返さないためには、日々の生活習慣を整えることが欠かせません。自宅でのセルフケアに加えて歯科医院での定期チェックを取り入れることで、予防効果がいっそう高まるでしょう。ここでは、ストレス性歯痛を防ぐために意識したい3つの生活習慣をご紹介します。
- 睡眠を整えて体を回復させる
- リラックスできる習慣を取り入れる
- 定期的に歯科でチェックを受ける
睡眠を整えて身体を回復させる
質の良い睡眠は、自律神経の乱れを防ぎ、歯ぎしりや食いしばりを起きにくくします。さらに、免疫力の低下を防ぐうえでも重要です。
厚生労働省は成人に1日7時間程度の睡眠を推奨しており、十分な休養を取ることで歯や神経を守ることにもつながります。寝る前のスマホ使用を控え、寝室を暗く静かに整えれば、より深い眠りを得られるでしょう。
リラックスできる習慣を取り入れる
日々のストレスをため込みすぎないことも、歯の健康を守るポイントです。
深呼吸やストレッチ、軽い運動、好きな音楽やアロマなど、自分に合ったリラックス法を習慣にしましょう。そうすることで自律神経が整いやすくなり、歯ぎしりの頻度が減る傾向があると報告されています。
無理なく続けられる方法を見つけ、ストレスを軽減する生活を心がけましょう。
定期的に歯科でチェックを受ける
セルフケアだけでは見落としてしまうリスクを早期に発見するには、定期検診が欠かせません。
歯科医院でのクリーニングは口内を清潔に保てるだけではなく、歯ぎしりや食いしばりのサインを確認してもらえるのも大きなメリットです。
日本歯科医師会では半年に1回の検診を推奨しています。継続的に受診することでストレス性歯痛を未然に防ぎやすくなるでしょう。
関連記事:【歯科医師監修】歯のクリーニングの保険適用の料金|クリーニングの内容も解説
ストレス性歯痛を防いで快適な生活を取り戻そう

ストレスによる歯の痛みは、虫歯の症状とは異なり、歯ぎしりや免疫力の低下、唾液の減少といった身体の反応によって引き起こされることがあります。違和感や炎症のサインを感じたときは、まず自宅で患部を冷やす、あるいは口内を清潔に保つなどの応急処置を試してみましょう。
そのうえで、十分な睡眠やリラックス習慣を取り入れ、定期的に歯科検診を受けることが、ストレス性歯痛を防ぐための基本です。
もし症状が続いたり、神経に響くような強い痛みを感じたりする場合には、我慢せずに歯科医院で治療を受けることが大切です。
早めに専門的なケアを受ければ、痛みの不安から解放され、快適な毎日を取り戻せるでしょう。
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この記事を書いた人

デンタルオフィス虎ノ門 院長 柳瀬賢人
所属学会・勉強会
- MjARSの主宰(歯科医師の勉強会)
- M:ALT’s(@土屋歯科クリニック&works)所属
- SJCD(日本臨床歯科学会)会員
- ITIベーシック・アドバンス サティフィケイト
経歴
- 東京医科歯科大学 卒業
- 名古屋大学 口腔外科
- 歯周病インプラント専門医Jiads講師のもとで勤務
- 医療法人複数歯科医院勤務
- 医療法人歯科ハミール デンタルオフィス虎ノ門院 院長就任
出身高校
- 愛知県立明和高等学校