「親知らずが神経に近いって言われたけど大丈夫なの?」
「抜歯後にしびれが残ったら一生治らないの?」
そんな不安を感じている方に向けた記事です。
この記事でわかること
- 親知らずと神経の位置関係や後遺症のリスク
- 抜歯後に起こるしびれや味覚障害の症状と回復までの流れ
- 神経損傷のリスクが高いケースと適切な対処法
親知らずが神経に近い場合、抜歯によってしびれなどの後遺症が出ることがあります。
しかし、CT検査などで事前に位置関係を把握すれば、リスクを避ける判断も可能です。
親知らずの抜歯は不安がつきものですよね?
特に神経が近いと聞くと、後遺症のことが頭から離れなくなります。
この記事を読むことで、抜歯前にどんな準備をすればよいかがわかり、後悔のない判断ができるようになります。
安心して治療に進みたい方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
親知らずと神経の関係とは?

親知らずが下あごにある場合、神経との距離が非常に近くなることがあります。
とくに「下歯槽神経」と呼ばれる神経は、歯の根のすぐ下を通っており、抜歯時に損傷のリスクがあります。
下顎の神経(下歯槽神経)との距離が近いケース
親知らずと神経の位置が近いと、抜歯の際に神経を傷つけるリスクがあります。それにより、お口や下くちびるにしびれが残る場合があるのです。
特に下あごの骨の中には「下歯槽神経(かしそうしんけい)」という太い神経が走っています。
親知らずの根がこの神経に触れていたり、またいでいたりする場合は注意が必要でしょう。
しびれの程度は軽く済むこともあれば、発音や食事に支障が出るほど重くなるケースも見られます。例えば、根が神経を覆っていたり、根の間に神経が通っていたりすると、損傷の確率は高まるのです。
抜歯前に神経との距離を正確に把握することが、安全な治療への第一歩と言えます。
レントゲン・CTでわかる神経との位置関係
親知らずと神経の位置関係は、画像診断によって事前に詳しく確認できます。
特にCT検査は、3Dで立体的に状況を把握できるため、とても有効な方法です。
歯科医院での一般的な流れとして、まずパノラマレントゲンで位置を確認します。この段階で歯の根と神経の重なりが疑われた場合、CT検査へと進むことが多いでしょう。
CTは骨の内部を断面図として見られるため、神経との距離をミリ単位で測定可能です。
CT検査の結果、神経と根が接していると分かれば、抜歯方法の変更などを検討します。
専門医による処置が選択されることや、まれにリスクが高すぎて抜歯自体を見送る判断もあるのです。抜歯前に画像診断を受けることで、トラブルの可能性を最小限に抑えられます。
神経に近い親知らずの抜歯で起こりうる後遺症とは?

神経に近い親知らずの抜歯で起こりうる後遺症は以下のとおりです。
- 舌や下唇のしびれ(感覚麻痺)
- 味覚障害・違和感
- 回復までの期間と完治するかどうか
順番に解説します。
舌や下唇のしびれ(感覚麻痺)
親知らず抜歯後、舌や下唇にしびれが残るという後遺症が起こることがあります。
これは、抜歯時に下あごの神経(下歯槽神経・舌神経)へ刺激や損傷が加わることが原因です。
しびれの程度は様々で、感覚が鈍くなる軽いものから、何も感じない重度の麻痺まであります。主に下あごの親知らずを抜いた際に発生する症状で、上あごではほとんど起こりません。
例えば、「下唇の右半分がピリピリする」「話すときに違和感がある」といった訴えがあります。歯ブラシが当たっても感触がないなど、生活に不便を感じる方もいるでしょう。
こうした感覚麻痺は時間の経過で回復することが多いですが、完全には戻らないケースも存在します。そのため、抜歯前のCT撮影による神経位置の正確な把握が、非常に大切になるのです。
味覚障害・違和感
親知らずの抜歯後、味覚がおかしくなるケースも報告されています。
例えば、甘みや塩味を感じにくくなったり、金属のような味がしたりするのです。
これは抜歯の際に、下あごの奥歯近くにある「舌神経(ぜつしんけい)」を傷つけることで起こります。親知らずの根が神経に近接していると、圧迫などの損傷を受けやすいでしょう。
ある方の例では、抜歯後しばらく舌の片側で味を感じませんでしたが、数か月後に回復したそうです。
味覚障害はしびれよりも自覚しにくく、見過ごされることもあります。もし「食事がおいしくない」「味の感じ方がおかしい」といった違和感が続くなら、注意が必要です。神経の回復を促す治療が必要となるかもしれません。
回復までの期間と完治するかどうか
神経へのダメージからの回復には時間がかかる傾向があります。
軽いしびれであれば、数日から数週間でおさまることもあります。けれども、神経が強く損傷していると、完治までに半年以上かかる場合もあります。
一般的に、以下のような経過が考えられます。
- 数週間:軽い感覚の鈍さが自然に改善
- 1〜3か月:神経の再生がゆっくり進行
- 6か月〜1年:回復しない場合、後遺症として残る可能性あり
例えば、3か月たってもしびれが改善しない患者に、ビタミンB12製剤の投与を開始したところ、半年後には感覚が戻ったという症例があります。逆に、1年経ってもまったく変化がなかったという報告もあります。
神経は一度損傷すると完全に元どおりにならないこともあります。だからこそ、抜歯前にリスクを十分に理解し、経験豊富な歯科医師の判断のもとで処置を進めるようにしましょう。
神経損傷のリスクが高いケース3選

親知らずが神経に近い場合、抜歯による神経損傷のリスクが高くなります。特に以下の3つの条件に当てはまる場合は注意が必要です。抜歯前に状態を正確に把握し、慎重な判断が求められます。
- 親知らずの根が神経と接触・交差している
- 深く埋まっている水平埋伏歯
- 高齢者や骨が硬い人の抜歯
順番に解説します。
親知らずの根が神経と接触・交差している
神経損傷のリスクが最も高いのは、親知らずの根が下歯槽神経と接触または交差している場合です。理由は、抜歯時に根の部分が神経を圧迫したり、引っ張ったりする可能性があるからです。
例えば、レントゲン画像で神経の走行と親知らずの根が重なって映っているケースでは、抜歯によって一時的なしびれや感覚麻痺が生じることがあります。症状は舌の先や下唇の一部に出る場合が多いです。
このような状態が疑われる時は、CTで三次元的に歯と神経の位置関係を確認することが必要です。神経と根が接している場合、無理に抜歯をせず、部分的に歯を残す処置が検討されることもあります。
深く埋まっている水平埋伏歯
親知らずが歯ぐきの奥深く、横向きに埋まっている「水平埋伏歯」では、神経損傷のリスクが高くなります。水平埋伏の場合、歯を分割して取り出す必要があり、手術の難易度が上がるからです。
具体的には、骨の中を削りながら歯を少しずつ取り出す処置になります。その過程で器具が神経の近くまで到達する可能性があり、慎重な操作が求められます。
たとえば、下顎の骨が厚くて硬い患者に対して、長時間の手術になったケースでは、術後に唇や顎先に感覚の異常が出ることがあります。こうした場合には、術前にCTでの診断と、口腔外科専門医による対応が安全につながります。
高齢者や骨が硬い人の抜歯
年齢を重ねると骨が硬くなり、親知らずの抜歯時に神経損傷が起こりやすくなります。若年層と比べて骨の弾力が失われ、歯が抜けにくくなるからです。
例えば、60代以上の患者で親知らずがしっかり骨に固定されている場合、抜歯に時間がかかるうえ、周囲の組織にも負担がかかります。
無理に引き抜こうとすると、神経が圧迫されるおそれがあります。
さらに、高齢者は傷の治りも遅く、しびれが長引くこともあります。年齢が高く抜歯の難易度が高いと判断された場合には、大学病院や総合病院の口腔外科に紹介してもらいましょう。
もし後遺症が出てしまったら?対処法と相談先

抜歯後にしびれなどの後遺症が出た場合、すぐに歯科医院へ相談しましょう。自然に治ることもありますが、医師の判断を仰ぐことが早期回復につながります。ビタミンの処方や経過観察、必要に応じて専門機関の紹介を受けることもあります。
- 自然治癒の可能性(数週間〜数ヶ月で回復するケース)
- ビタミンB12の処方や投薬治療
- 歯医者で見てもらう
順番に解説します。
自然治癒の可能性(数週間〜数ヶ月で回復するケース)
神経に近い親知らずを抜歯すると、下唇やあごのしびれが残ることがあります。
多くの場合、神経が完全に切断されていなければ、時間の経過とともに回復する可能性があります。
自然に回復する理由は、神経が軽く圧迫されただけであれば、自己修復機能によって感覚が戻るからです。
例えば、抜歯の翌日に下唇の感覚が鈍くなったものの、1ヶ月ほどで徐々に回復し、3ヶ月後にはほぼ元に戻ったという人もいます。
すぐに完全な感覚が戻らなくても、数ヶ月単位で改善することがあるため、経過を落ち着いて見守ることも必要です。
ビタミンB12の処方や投薬治療
後遺症の症状が続く場合、神経の修復を助けるためにビタミンB12の服用がすすめられることがあります。ビタミンB12には末梢神経の再生を助ける働きがあり、医師が治療の一環として処方することがあります。
例えば、メコバラミンというビタミンB12製剤を1日3回、数週間服用した結果、徐々にしびれが改善したという症例もあります。
また、状態によっては消炎鎮痛薬や血流を改善する薬が処方されることもあります。
自己判断で市販薬を使うのではなく、歯科医師や医療機関で適切な診断を受けたうえで、処方された薬を服用しましょう。
歯医者で見てもらう
しびれや感覚の異常を感じたら、抜歯を担当した歯科医師にすぐ相談してください。症状の程度や神経への影響を把握するため、CTやレントゲンの再撮影が必要になる場合があります。
歯科医が対応できないと判断した場合は、口腔外科や大学病院など専門性の高い医療機関を紹介してくれることがあります。
例えば、下顎のしびれが強く出た人が紹介状を持って大学病院を受診し、神経科と連携しながら回復を目指したケースもあります。
違和感を放置せず、専門医と連携しながら対処していくことが、後遺症を悪化させないために重要です。
まとめ
最後に、この記事の内容をもう一度まとめておきます。
- 親知らずが神経に近いと、抜歯によって下唇や舌のしびれなどの後遺症が出る可能性がある
- 神経との距離はレントゲンやCT検査で事前に確認できる
- 神経を傷つけるリスクが高いのは、根が神経と接触している場合や、水平埋伏歯、高齢者の抜歯
- 後遺症が出た場合でも、自然回復やビタミンB12の投与で改善が見込まれる
- 異常を感じたらすぐに歯科医に相談し、必要であれば専門機関を受診する
もし親知らずの抜歯を控えていて、不安がある場合は、CTなどの画像検査で神経との位置関係を確認し、経験豊富な当院にご相談ください。
親知らずの抜歯は、準備と判断を誤らなければ安全に進められます。不安を感じたら早めに医師と話し合い、納得のいく治療を受けてください。
当院、医療法人歯科ハミールの分院も、今後共よろしくお願いいたします。
この記事を書いた人

デンタルオフィス虎ノ門 院長 柳瀬賢人
所属学会・勉強会
- MjARSの主宰(歯科医師の勉強会)
- M:ALT’s(@土屋歯科クリニック&works)所属
- SJCD(日本臨床歯科学会)会員
- ITIベーシック・アドバンス サティフィケイト
経歴
- 東京医科歯科大学 卒業
- 名古屋大学 口腔外科
- 歯周病インプラント専門医Jiads講師のもとで勤務
- 医療法人複数歯科医院勤務
- 医療法人歯科ハミール デンタルオフィス虎ノ門院 院長就任